血管攣縮のような血管異常収縮の本態として、Rhoキナーゼ(ROK)を介するCa2+非依存性のミオシン軽鎖(MLC20)リン酸化→Ca2+非依存性収縮が注目されている。そのCa2+非依存性のMLC20リン酸化の分子機構として、in vitro系においてROKは、1)MLC20を直接リン酸化する事、2)ミオシン脱リン酸化酵素を阻害し間接的にMLC20リン酸化を増加させる事、の2経路が報告されているが、明確に前者の可能性を否定することなく、後者の経路が主流/唯一の経路とされている。本研究では、この前者の可能性について検証してみた。検証にあたっては、ミオシンリン酸化や収縮に影響を与え得る他の分子(MLCキナーゼや脱リン酸化酵素等)の微量混入・関与を除外するために、2種類の質量分析によって検証されたリコンビナント蛋白質のみを用い、純粋な実験系として、アクチン・ミオシン分子の滑り運動を1分子in vitro motility解析した。使用したリコンビナント平滑筋ミオシンは、確かに目的分子のみから構成されている事をMALDI-TOF/MSで同定した。また、MLC20自体は、確かに非リン酸化型である事をLC-MS/MSで確認した。さらに、Ca2+非存在下で、リコンビナント活性型ROKはMLC20を直接リン酸化する事をProQ Diamond染色とLC-MS/MSにより確定した。アクチン・ミオシン分子のin vitro motility解析において、このROKによってCa2+非依存性にリン酸化されたミオシンは、0.30μm/secという滑り運動を示した。この速度は、Ca2+存在下、MLCキナーゼでMLC20をリン酸化させて測定した時の最大値(0.27μm/sec)と同程度であった。さらに、活性型ROKは、実際に、スキンド処理血管において、細胞質Ca2+ゼロの条件下でも、最大収縮に匹敵する大きなCa2+非依存性収縮を引き起こした。現在、このCa2+非依存性収縮能を有するMLC20のリン酸化部位を質量分析で同定中である。